ゆっくり歩いて、遠くまでいく 〜なぜ、変わろうと急がなくてもいいんだろう?〜

ゆっくり歩いて、遠くまでいく

「なぜ同じ関係性を、何度も繰り返してしまうんだろう?」
「どうして私は、こんなに自分を責めてしまうんだろう」
「もういい大人なのに、なぜ不安がこんなに強いんだろう」

 

カウンセリングの場でも、日常の中でも、
こんな問いを持つ方はとても多いように感じます。
私自身も、その一人です。

 

でも実は、こうした反応の多くは、
性格や意志の問題というより、
脳と神経系の働きによるものだったりします。

 

私たちの脳には、
危険を察知して身を守るための仕組みがあります。

過去に傷ついた経験や、
安心できなかった体験が重なると、
この仕組みは、とても敏感になっていきます。

すると、

・不安になりやすい
・考えすぎてしまう
・すぐに自分を責めてしまう
・安心していても、どこか緊張が抜けない

 

そんな反応が、いつの間にか
「クセ」のように出てくるようになります。

でもこれは、わたしたちが弱いからではなくて、
これまで生き延びるために身につけてきた、
自然な防衛反応なんですよね。

 

脳は「よく使う回路」をどんどん強くしていきます。

不安になる回路、
警戒する回路、
自分を責める回路。

それを何度も使っていると、
その回路(シナプス)がだんだん太くなって、
気づかないうちに、同じ反応を繰り返すようになります。

 

でも、私たちの脳には、
とても大事な働きがあるんです。

 

それは、脳には、何歳からでも、
新しい体験によって新しい回路をつくれる
「可塑性(かそせい)」という力。

 

私がカウンセリングの視点で大切にしている
マインドフルネスやセルフ・コンパッションは、
まさにこの「新しい回路」を育てていくための実践です。

 

特にセルフ・コンパッションは、
大切な友人や家族が困っている時、
苦しんでいる時にやさしさを向けるのと同じように、
自分自身に優しさと思いやりを向けていきます。

安全・安心・あたたかさという感覚を、
自分自身の神経系そのものに
届けていくアプローチです。

 

今まで十分に感じられなかった、

「私はここにいて大丈夫」
「このままで安全」
「ひとりじゃない」
「私はありのままで十分」

 

そんな感覚を、
頭で理解するというより、
身体の感覚として、少しずつ味わっていきます。

 

すると、脳の危険察知システムの働きも、
だんだん落ち着いてきて、
神経系は「危険モード」から「安心モード」へと
切り替わっていきます。

自己受容って、
「頑張って頭で理解して身につけるもの」ではなくて、
神経系が安心したときに、
自然と生まれてくる感覚なのかもしれません。

 

だからこそ、回復は急がなくていいし、
無理に変わろうとしなくてもいいし、
「治そう」と頑張らなくても大丈夫です。

 

必要なのは、
小さな安心を、何度も体験していくこと。

その積み重ねが、
新しい回路(シナプス)をつくって、
新しい自分とのつながりを、
少しずつ育てていきます。

 

「ゆっくり歩いて、遠くまでいく」

カウンセリングでは、
ひとりで歩くには少し心細い道を、
安心できる人と一緒に歩いていきます。

カウンセラーの役割は、
答えを出すことでも、
無理に変えさせることでもなくて、
その人の神経系が、
安心できるリズムを思い出すまで、
そばで一緒に歩いていくこと。

 

その歩みは、ゆっくりに見えるかもしれません。
でも、その道はちゃんと、
あなた自身へとつながっています。

 

早く、効率よく、変化しなきゃと急ぐよりも、
気づいたときには、
「こんなところまで来ていたんだね」と、
ずっと遠くまで来ていた自分に、
やさしさと、ねぎらいの気持ちを向けている。

 

そしていつの間にか、
以前よりもずっと、
自然な呼吸で生きている自分に、
そっと戻っているんです。